【書評】『すっぽん心中』戌井昭人著
表題作は、漬物のルート配送の仕事をしている27歳の男、田野が主人公。軽トラックを運転中に追突事故にあって首を痛めて休職中の田野はある日のリハビリ帰り、上野の不忍池で不思議な雰囲気を持った19歳の女、モモと出会う。何度も痛い目にあいつづけながらも、あっけらかんとしている。そんなモモと意気投合した田野はひょんなことから2人で霞ケ浦へすっぽんを捕りに行くことに。けだるい日常に飽いた男と女の2日限りの非日常を、哀愁とおかしみの漂う筆致で描く。第149回芥川賞候補になった表題作と、書き下ろしの「鳩居野郎」など短編2編を収録。