【翻訳机】青木薫(翻訳家) 「理解して訳す」を目標に
もともと私が翻訳に興味を持ったのは、文化と文化の間に黒々と口を開ける、断崖の深さに愕然(がくぜん)とする経験をしたことがあったからだった。そんな文化の産物でもある言葉と言葉に橋をかけようとする翻訳という企ては、失敗を運命づけられているようにも思われた。しかしその一方で、翻訳が不思議なほどうまくいくケースもあるし、困難な訳業が文化にエネルギーを注いできたという歴史も見逃せない。そんな翻訳の奥の深さに、私は不思議と心が惹(ひ)かれたのである。