【エネルギー選択の視点】(下) 「新興国が模倣できない産業を」富士常葉大教授 山本隆三氏
--日本の原発政策をどう見る 「福島の原発事故後、欧州でもストレステスト(耐性検査)などが実施され、新たな安全対策を打ち出した国もあるが、いずれも発電を続けながらの対応だ。欧州では、『脱原発』を決めたドイツが古い8基を止めただけ。新基準策定まで原発稼働を停止する日本は世界の中では特異だ」 --海外の反応は 「日本の原発技術が失われることを多くの欧米諸国は懸念している。日立や東芝、三菱重工業などの日本メーカーは、米、仏企業とともに原発技術を牽引(けんいん)しているからだ。原発は地球温暖化対策のカギも握る。新興国で原発導入が進むが、『脱原発』を掲げた日本が技術を輸出しようとしても信用されない。新興国では技術的に問題のある危険な原発が増えかねない」 --原発の代わりに太陽光などの再生可能エネルギーが注目されている 「固定価格買い取り制度(FIT)を積極的に推進したドイツでは、標準家庭が電気代で負担するコストは年2万円を超えた。産業界の反発も強く、9月の総選挙を視野に環境大臣が電気代上昇を懸念し、制度の一時停止を提案するまでになった。再生可能エネの普及には欧州全体の送電線強化が必要だが、コストや実現性が問題だ」 --欧州は再生可能エネの普及に熱心だ 「ロシアへの天然ガス依存度を引き下げるという、エネルギー安全保障上の理由も大きい。2006年と09年は、厳寒期にロシアからのガス供給を止められた。ドイツの太陽光電池の生産は日本を抜いたものの中国に敗れた。デンマークの世界最大手風力発電メーカーも大赤字が続く」 --失敗を防ぐには 「既存技術による製造業では、すぐに中国などの新興国企業に席巻され、せっかくのFITも、自国の税金や電気料金で中国の富と雇用を増やすだけになる。新興国にはまねできない技術での産業育成が必要だ」 --具体的には 「バルト海や北海の強風でも耐えられる洋上風力発電設備では、欧州2社で約9割の世界シェアだ。その電気を陸地に送る直流高圧送電線でも、欧州3社が世界シェア8割を占める。欧州はすでにその分野への特化を進めている。日本も原発政策とともにFITのあり方を見直し、産業競争力強化につなげていくべきだ」