【欲望の美術史】宮下規久朗(15)風景を描く 平凡であることの価値
人は美しい自然に囲まれると落ち着くものだ。とくに、都会人は余暇に海や山に行ったり、公園を散歩したり、自然とふれあうことに安らぎを見出す。美術も、美しい自然を写して人を喜ばせるという機能をもってきた。中国では、山水画は漢時代から存在しており、水墨画の技法とともに室町時代以降の日本にも流入し、現在まで受け継がれている。しかしそれらは、神仙世界や文人の理想を自然に仮託するものであり、ありのままの自然を写すものではなかった。