【鈍機翁のため息】(102)漕刑囚の解放 I 王権など考慮無用か
マンブリーノの兜(かぶと)を頭に乗せて街道をゆくキホーテの前方に、鎖につながれ数珠つなぎになった十数人の男たちが姿を現す。彼らは4人の役人に見張られ、重い足を引きずっている。罪を犯したためにガレー船の漕(こ)ぎ手(漕刑囚(そうけいしゅう))にされる連中だ。世間智に富むサンチョは彼らの事情を説明するが、その中の《王様に無理強いされて》という言葉がキホーテをいたく刺激してしまう。キホーテいわく《事情はどうあろうとも、あの者たちは無理やり引かれていくのであって、決してみずからの意志でまいるのではないのだな…今こそ、抑圧と屈辱を取り除き、弱きを助けることを任務といたす拙者が力を発揮すべき時じゃ》。キホーテにとって大事なのは騎士道であり、王権など考慮するに値しないものなのだ。時は黄金世紀、王はフェリペ2世である。