震災から3年-「感謝と備え」を(4) 東北観光に磁力を
―東北の観光の現状を教えてください。旅館が地域に与える影響の大きさ
理事長 震災直後から宮城県内の被災地や都市部に近い宿泊施設は復旧工事関連の方々にご利用いただき、秋保温泉だけでも延べ7万6千人にお泊まりいただきました。その後、国をあげて東北に行こうという運動をしていただきましたので、たいへんありがたかったです。現状はそうした需要が一巡してしまった感があります。私たちが今考え、取り組まなければいけないのは、東北の観光に磁力をつけることだと思っています。被災地としてではなく新しい観光地として生き延びていけるよう、様々な官民の機関が連携しながら東北の観光の魅力づくりに取り組んでいます。
佐藤 勘三郎さん宮城県ホテル旅館生活衛生同業組合理事長
―旅館や旅館組合は震災に備えてなにができるのでしょう。
会長 気持ちの備えが大事なのではないでしょうか。被災後、あまり早く従業員を解雇したり、事業継続を諦めないことです。ビジネスをやめることではなく、ビジネスを続けるにはどうすればいいのかと考えを切り替えることが大事です。もちろんBCP(ビジネス・コンティニュー・プラン)を策定しておくことも役に立つでしょう。
東日本大震災のあと、ある旅館が被災者を受け入れたときに料理の材料が手に入らなかったそうです。取引先の魚屋さんに連絡すると、店舗も魚も全部流されて商売ができないと断られました。そのとき、旅館の経営者は魚屋さんに、あなたが頑張ってくれなきゃダメじゃないかと説得したそうです。店も魚もなくなったけど、魚屋の店主には商売の中で培ってきた人間関係がありました。だから人間関係でなんとか魚を仕入れ、旅館に納めてくれ、商売も続けたそうです。これは魚屋だけの話ではないと思います。津波に流され街になにもなくなったときに、1軒の旅館が被災者を受け入れたことで、魚屋や肉屋が商売を続ける気持ちになった。旅館の役割、地域に与える影響の大きさをあらためて実感させられました。
理事長 会長のおっしゃる通りです。震災後、私も宮城県旅館組合の理事長として仙台市の旅館を1軒1軒訪ねて歩きました。ある大きな旅館さんは建物が大きく被災し、もうダメだと従業員を全員解雇し商売の継続も諦めていました。困難を前にしたときに、いかに勇気を奮い起させるのかは非常に大切なことだと思います。
結局、その旅館は被災企業の再建を支援する国のグループ化補助金を利用して立ち直り、今では繁盛旅館です。旅館は生活全般産業として、地域の核になる存在として生きていくんだという思いを、被災地域の旅館経営者と共有できた気がします。
(トラベルニュースat 14年5月25日号)
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