【鈍機翁のため息(79)】宿屋の大騒動 II 据え膳食わぬ純潔の騎士
先に屋根裏部屋に先客がいると書いた。それは屈強な馬方である。これまでもたびたび馬方とトラブルを起こしてきたキホーテのこと、何も起こらないはずがない。じつはこの馬方と女中は、みなが寝静まったあとで楽しく過ごす約束をかわしていた。かたや妄想の世界に浸っているキホーテは、自分に一目惚(ぼ)れしたに違いない城主の姫君が、必ずやしばしの逢瀬(おうせ)を楽しみにやってくると信じ、思い姫ドゥルシネーアに対する自分の忠節(純潔)をどう守るべきか、思い悩み始めていた。