生産現場を見せる役割
滋賀県にある農業拠点施設が農作業体験の参加を初めて呼びかけた。見込みどおり県外客が多い。だが、その姿に担当者は驚いた。スカート姿で参加してきた女性、きれいな真っ白な靴を履いてきた人...。着替えを持っている様子はない。「私らが当たり前と思っていることが通用しないんです。お客さんに『えーっ、聞いてなかった』と言われれば確かにそう。土いじりをしますから、汚れてもいい服装で来てくださいと事前に案内しておかなければなりませんでした」と、担当者は真顔で反省していた。
サツマイモのオーナー畑。オーナーからは「無農薬で安全なものを」とオーダーを受けた。収穫でオーナーがやってきた。畑は雑草が生い茂っている。雑草を刈り取り、その下に畑を覆ったビニールが現れ、芋つるをとり、ようやくイモ掘り。疲れ果てたオーナーに「無農薬ってそういうもんです」と伝えたそうだ。
スーパーマーケットに並んでいる状態が農産物の姿と思っていないか。無農薬や有機栽培といった言葉はキャッチコピーか何かのように思っていないか。自分が口に入れる物の生産現場をもっと知っておいていい。観光業がその役割を担うべきだと改めて思う。メニュー偽装問題で生じた失地は、やはり自分らの手で取り返すしかない。
(トラベルニュースat 13年11月10日号)