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【書評】『調律師』熊谷達也著

【書評】『調律師』熊谷達也著
 ピアノ調律師の鳴瀬は、音から匂いを感じ取る。果物のような心地よい香りや、生ゴミのような臭気を。おかげで完璧な調律ができるのだが、面倒なのは、異臭の原因が楽器の狂いではなく、演奏者の心に問題がある場合で…。家庭、学校、ジャズバー。次々に依頼をこなすうちに、彼が特殊能力を得た理由が明かされていく。そして、物語は大きく転調する。仙台在住の著者は、本作の執筆中に東日本大震災を体験。あとがきで「以前と同じようには小説を書けなくなった」と明かす。軽快なタッチの連作集は、生々しい「断絶」を刻み込んだ現代文学として結実した。
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