【紅と白 高杉晋作伝】関厚夫(58)覚醒篇
《嗚呼(ああ)、自分はつい先日、軍艦に搭乗して外洋や古来の難所・遠州灘を一気に疾駆帆走した。こんどは単身孤剣、千里の道のりを踏破しようとしている。まことに人生の愉快というべきである。しかしながら、ただぼんやりと歩いたところでなんの功用があろう。名山大川を踏破し、偉人や奇士と親交し、その議論や天下の形勢、目にふれるもの、心を動かすものをみな、自分の生涯をささげる大業の礎(いしずえ)にするのだ》 晋作は、万延(まんえん)元(1860)年秋に江戸から関東から信越、北陸を経て萩にかえる旅をしるした紀行『試撃行日譜』の序文にそうしるしている。