【紅と白 高杉晋作伝】関厚夫(11)修行篇 入塾(五)
「話をかえましょう。さきほど少し武将としての孫子にふれましたが、高杉どの、兵法書の『孫子』のほうで、戦(いくさ)のさいになにか参考にすべきものはありましょうか」 「…兵は神速を尊ぶ-いや、これは『魏志』でございました。たしか、『孫子』は…『兵は拙速なるを聞く』でありました。それから『彼を知り、己を知れば百戦して危うからず』」 晋作は、記憶の糸をたぐりながら、ばつの悪い思いで隣(とな)りに座っている中谷正亮(しょうすけ)の表情を盗み見た。中谷はいつものように穏和な微笑を浮かべている。